鞄持ち
今のご時世、学校帰りの小学生のうちの一人が他のみんなの鞄を持たされているとしたら、「いじめ」と反応する確率は非常に高いと思われる。おまけにその鞄を持たされた子はヘトヘトになりながら遅れて歩いてくる。しかし、学校帰りの鞄持ちなんか、昔はよくやったものだ。
人数は四、五人くらいが手頃であろう。全員でじゃんけんをし、一番負けた者が全員の鞄を持って運ぶ。その距離はあらかじめ始める前に決められる。「電信柱三本」とか。電信柱だと、到達点が見えるので、じゃんけんに負けてもそれほど苦にはならない。
私がこんな鞄持ちの遊びを上級生に教えてもらったとき、それは「イヌネコ」という名前(電子柱の場合は単なる「鞄持ち」という名称)で、じゃんけんに負けた者は犬または猫と出会うまで鞄を運び続けるというルールだった。まだ街角に首輪のない猫がうろうろしたり、犬も外で飼われているのが結構いた。「次はあそこに犬がいたはず」と思っていると、急に猫が横切ったり、逆にいつもいるはずの犬がこの日に限っていないなどと、電信柱に比べると不確定要素が大きく、面白かった。土曜日の帰りの鞄持ちは給食当番のかっぽう着や体操服を持ち帰るため、大変な盛り上がりを見せた。
やがて家が近づいた者から一人抜け、二人抜けしていく。表通りではケーブルを地下に埋設し、電子柱が消えていく。電信柱ルールではなく、イヌネコを復活させようとも、野良猫は減ったし、犬も家の中で飼う方が多いようだ。ましてや、はたから見ると「いじめ」に見える、この鞄持ちはそろそろこの世から消えてしまうかもしれない。
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