巡回映画
小学校のときに年に二度ぐらいの頻度で、授業時間に学校の体育館で巡回映画というのが催された。体育館のカーテンなんか、こんなときぐらいしか活躍の場がない。二列縦隊でいつもの様に体育館に入場するが、カーテンを引き、照明が点けられた空間はいつもの体育館とは違い、それだけでもそわそわしてしまう。ステージに設けられたスクリーンの方を向いて、全員が体育座りで座る。照明が消えて暗くなった途端に奇声が聞こえてきたりした。やがてカタカタと映写機が回りだし、スクリーンにカウントダウンの数字なんかが表示される。
二時間連続で映画が見られる、この巡回映画が楽しみでしょうがなかった。あまりにも巡回映画が好きで児童会の「学校へのお願い」というコーナーに「巡回映画の回数を増やして欲しい」というのを出したが、校長先生に「これは数が決まっているので、増やせません」と言われた。映画の内容は交通安全や社会科の勉強のためのちょっと昔(昭和三〇年代か?)の人々の生活ぶりを収録したものなど。ちょっと時間の長い作品になると道徳の話のようなものが上映された。そんな中、唯一、「我が家の好敵手」というタイトルは覚えているのがあるが、詳細な内容まではさすがに覚えていない。
私だけでなく、ほとんど全員の子供が巡回映画が好きだったはずだ。日常の単調な授業の毎日ではなく、遠足、運動会、お楽しみ会などの非日常的な行事は誰もが大好きで、巡回映画もまさにその一つであった。おまけにいつもと違う真っ暗な体育館で大きなスクリーンを見るのがうれしい。教室でビデオ(その当時はまだなかったけど)を見るのとは違う。映画だが映画館で見るのとは違う。映画館で映画を見るのはあまりにも当たり前。日常の体育館がその会場となるところに非日常らしさの効果がより一層引き立つ。
そんな私が大好きな巡回映画も五年生のときには予定時間よりも早めに終了した。「それでは男子はこれから教室に戻って自習。女子はそのまま残るように」、と先生が言った。教室に戻って自習をするはずはなく、「何で女子だけ残ったんだろう?」という理由の検討会になった。
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