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小学校最大の思い出

 小学校の卒業が迫ると、校長先生と一緒に給食を食べるといったイベントがあった。一学年一六〇名ほど生徒がいて、毎日五、六人の児童が交代で校長室で給食を食べるものだ。給食の配膳が終わると、その日割り当ての児童はお盆を持って校長室へ向かう。もちろん、校長先生も同じ給食を食べる。

 校長先生はあらかじめ連絡されている児童の名前を手帳に書きとめていて、順に顔と名前を確認する。小学生の間ではまだ校長も尊敬の対象であるし、相手は手帳を見ながら覚つかなくながらも自分の名前を呼んでくれる。当時純粋だった子供にはそれだけでも十分嬉しかった。

 間がもたないので話題はあらかじめ決められている。「小学校での一番の思い出は何でしたか?」。別に校長先生が聞きたいと言うわけではなかろうが、ここではそれらしい無難な話題と言えよう。各々が給食を食べながら、それぞれの思い出話を語り出す。いくら記憶力の良い私でもこのときに一緒にいた友達が何を話したかは覚えていない。一緒に誰がいたのかも覚えていない。その日の献立も。まあ、そんなもんだろう。逆にそこまで今も覚えていたら怖い。

 私の番がまわって来た。このとき何を話したかは良く覚えている。それは入学式の翌日。登校したが自分の教室が分からず、二年生の校舎をウロウロしていたら、二年生が声を掛けてくれたことである。当時、木造で同じような校舎が二つ並んで建っていた。左側が一年生、右側が二年生だった。その二年生に「いちねんさんくみ」と答えると、教室まで連れて行ってくれた。この出来事が小学校最大の思い出だった。校長先生は「入学式の翌日に一番の思い出ができたというのは面白いですね」と言われた。

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